週末には、ちょっと凝ったお料理を

橋本ねこのお料理部屋( 'ω')

クリスマス気分を盛り上げる「シュトーレン」を作る

 

 


最近はすっかり日本でもシュトーレンが一般的に浸透してきたような気がする。

とはいえ、コンビニでもどこでも見かけるというわけではなく、パティスリーやペイストリーで見かける程度であり、まだ「知る人ぞ知る」感はある。

 

今回はそんなシュトーレンを作ってみる。

シュトーレンについて

シュトーレンとは

シュトーレン(Stollen)はドイツ発祥の菓子パン。焼き菓子というよりはパンである。

本場の発音では「シュトレン」の方が近い(「ト」をそこまで伸ばさない)。元々は坑道・地下道を意味する言葉である。見た目がトンネルっぽい事から名付けられたとされる。そうか…?

 

クリスマスを待つアドベント期間*1に少しずつ切りながら食べていくのが本来のシュトーレンの楽しみ方。

初出が1329年であり、本来素朴なパンとして誕生したシュトーレン。歴史が長いため元祖やレシピには揺らぎがあるが、いずれにしてもドイツ発祥である。

 

日本では1969年から製造され始めたとされる。

クリスマスシーズンに販売され食される関係上、どちらかというとクリスマス文化の根強い界隈で静かに広まっていたような印象を受ける。

ここ数年で急激に認知度と需要が高まり、パティスリーなどでも取り扱いが増えてきた。

 

 

作成時の注意点

元々のルーツからして各家庭で作るにしてもそこまで難易度は高くない。

ただし、いくつかの注意点がある。

 

シュトーレンを4週間日持ちさせるにはいくつかのポイントがある。

作成し次第すぐに全部食べてしまうのであればそこまで意識しなくても良いが、とにかく「菌を付けないこと」「菌を増やさないこと」が重要である。

①手をしっかり洗う

どうしても生地を捏ねる時は素手で行うことがほとんど。

手はよく洗うようにする。また、こまめに洗った方が良い。

②手を拭くときは使い捨てペーパーで

手を拭く際はタオルではなく使い捨てハンドペーパーを推奨する。

タオルに菌が付着していたら手洗いの意味は半減してしまうので、家庭では若干勿体なくも感じるが毎回使い捨てのハンドペーパーでの拭き取りが望ましい。

③手に水分を残さない

手洗い後の水分は完全に取り去る。

水分があると、水分を好む微生物のエサになってしまう。また、水滴はホコリや汚れを吸着してしまうため、出来る限り水気は取り去りたい。

④器具を清潔に

ボウルやバット、包丁、まな板なども全て消毒しておくと良い。アルコールスプレーなどで拭き取ると完璧だ。

⑤食材の温度管理をする

冷やすべきものは冷蔵庫、発酵させたいときは適した温度、と温度に気を配る。

中途半端な温度でイースト菌以外を活発にさせてはいけない。

⑥酒と砂糖に付けたフルーツを使う

シュトーレンの中のフルーツは酒と砂糖で処理した物を用いるとより長持ちする。

果実は本来傷みやすいものなので、こういった処理をしておかないと真っ先に傷んでいく。菌が傷んだ部分をエサにして増殖していくため、外側からの侵入を防げたとしても中が菌だらけになってしまう。

漬け込み済みのフルーツを使うと安全。自分で漬け込む場合はしっかりと保存が効くような作り方をする。

 

完成後のシュトーレンの内部で徐々にフルーツのアルコール分が生地にしみ出していき、菌の繁殖を抑える効果もある。

⑦バターをたっぷりと使う

生地にもたっぷりとバターを使うが、シュトーレンが焼き上がった直後に大量のバターで全体をコーティングする工程がある。

これによって空気を遮断し、菌の侵入を防ぐ。

⑧砂糖もたっぷりと使う

生地内にもフルーツにも砂糖はたっぷり。砂糖には防腐効果がある。

砂糖自身が隣接するものから水分を奪う吸湿性があり、菌が好きな水分を与えない効果がある。

また、バターでコーティングしたあとのシュトーレンの全体に砂糖をまぶす工程がある。これはコーティングしたバターの油分が酸化しないようにするためである。

⑨完成後は空気を遮断する

空気には色々な細菌、そして湿気(=水分)が含まれる。そのため、日持ちさせたいのであれば出来る限り空気を取り除く。

カットして食べる時は中央をカットして断面同士をくっつけて保存する。こうすることで空気に触れる断面は最小限になる。

繊細さん、シュトーレン

以上、シュトーレンを作る際の注意事項である。

  • 外側はバターや砂糖でコーティングしてガード
  • 内側は洋酒、砂糖による菌によって生きにくい環境を保つ
  • 作る際には清潔を意識する

これらを守って初めて「シュトーレン=日持ちのする食べ物」となるのだ。最初から勝手に日持ちするわけではない。一歩間違えると菌のすみかになってしまうため、作り方には気を配っておく。

既に存在する菌を薬品や加熱などで殺菌・除菌するにしても限度があるため、いかに有毒な菌にとって生活しづらい環境を用意するかがカギとなる。

シュトーレンの定義

材料や製法はドイツ食品典(Deutsches Lebensmittelbuch)に定められており、今回は割愛するがバウムクーヘンの定義などもこちらに記載がある。

 

シュトーレンとは、

  • 小麦粉(及びベースとなる材料に対して)30%以上の重さのバター等乳脂肪*2
  • 小麦粉(及びベースとなる材料に対して)60%以上の重さのドライフルーツ(オレンジピール・レモンピールを含む)

を含まなければならないとされており、さらに、

  • ベース材料の20%以上の重さのアーモンド⇒マンデル・シュトーレン
  • ベース材料の20%以上の重さのケシの実⇒モーン・シュトーレン
  • ベース材料の20%以上の重さのナッツ⇒ヌース・シュトーレン
  • ベース材料の40%以上のバター*3、70%以上のドライフルーツ⇒ブター・シュトーレン
  • ベース材料の40%以上のカード(凝乳)と20%以上のバター等乳脂肪⇒クワルク・シュトーレン
  • 生地の5%以上の重さのマジパンが入る⇒マルジパン・シュトーレン

と細かく分岐されて定義される。

 

また、ドレスデンシュトーレンという特許商標庁に登録されEU法にも保護された特別な定義もある。

とても細かく厳格なレシピと規定があり、この名を冠して製造・販売をするにはドレスデン・クリストシュトレン組合に加入していないといけない。

こうすることでシュトーレンという伝統的な食品を特別な不変のものとして保護しているのである。

 

作ってみる

さて、前述の注意事項を踏まえて作っていく。

今回はマジパンの中でもアーモンド比率の高い高級品「マジパン ローマッセ」を使い、いわゆる「マルジパン・シュトーレン」と定義されるものを作る。

材料

  • 洋酒漬けフルーツミックス*4・・・150g
  • ラム酒・・・30cc
  • 皮付き生アーモンド・・・40g
  • 中種
  • 本生地
    • 強力粉・・・100g
    • 薄力粉・・・100g
    • マジパンローマッセ・・・40g
    • ラニュー糖・・・25g
    • 無塩バター・・・100g
    • 塩・・・3g
    • 卵黄・・・1個分
    • スパイス
      • カルダモン・・・少々
      • ナツメグ・・・少々
      • シナモン・・・少々
  • 仕上げ
    • 無塩バター・・・100g
    • ラニュー糖・・・50g
    • 粉砂糖・・・100g

 

小麦粉である強力粉・薄力粉を合わせると250gとなる。

なので、「75g以上のバター」「150g以上のドライフルーツ」は必須となる。そもそもこの量以上を使わないとシュトーレンとは名乗れないのだ。

今回は生地内に100gのバター、150gのドライフルーツを用いるため、これから作ろうとしている焼成物は晴れてシュトーレンと名乗ることが出来る。

 

ドライフルーツは伝統的なレシピに於いてオレンジピールとレモンピールが必須である。しかし意外と既製品でオレンジピールとレモンピールの双方を入れているものの取扱いが多くない。

拘りたければ自家製で思い通りのフルーツを漬け込んでも良いが、菌を増やさずに漬け込まねばならず衛生面で一つ懸念事項が増えてしまう。そのため既製品の方が安心して使用できる。

 

マジパンは40gを用いているため、マルジパン・シュトーレンの定義である「5%以上のマジパン」を満たす。

アーモンドの重量の定義はわずかに満たさないため、マンデル・シュトーレンではない。

 

スパイスはお好みのものを使うと良い。面倒ならスパイスミックスを。

ナツメグとシナモンは絶対に入れたい。

 

あとはオーブンと泡だて器、ゴムベラ、刷毛があれば何とかなる。比較的専門的な道具は不要で、そういった面でハードルは低い。

やれ専用の型がどうのこうの、とかそういうのは無い。ありがたい。

 

作り方

それでは作っていく。

材料を仕込み、イースト菌入りの中種を作って一次発酵させている間に、本生地を作成。それらを合体し、焼いたら完成だ。

①準備

洋酒漬けフルーツミックス・・・150g

ラム酒・・・30cc

マジパンローマッセ・・・40g

無塩バター・・・100g

皮付き生アーモンド・・・40g


まず、フルーツミックスラム酒を加え、馴染ませておく。今回使うフルーツミックスは既に洋酒漬けになっているものだが、この工程を挟んだ方が完成品に洋酒の香りが活きる気がする。

馴染ませたらラップをぴったりと密着させ、出番まで冷蔵庫で寝かせておく。

 

続いて、本生地で使うマジパン40gと無塩バター100gを室温に戻しておく。


溶かしきる必要は無いが、ある程度柔らかくした方が混ぜ込みやすくなる。

 

今回はオーブンで生アーモンドをローストして砕く。面倒なら砕いてあるローストアーモンドを用いても構わない。

160℃のオーブンで15分程度ローストし、冷めたところで粗めに砕いておく。

砕くときはジップロックに入れると飛び散らずに便利。ジップロック最強。

 

②中種作り

牛乳・・・50ml

ドライイースト・・・4g

強力粉・・・25g

薄力粉・・・25g

続いて「中種」を作る。

 

まずは牛乳を人肌程度に温め、ドライイーストを入れる。

3分ほど待ってから掻き混ぜて溶かしておく。

 

ボウルに中種用の粉を入れ、先ほどの牛乳とドライイーストを投入。

滑らかになるまで混ぜる。だいたい5分くらい。

その後ラップをし、27℃くらいの温度で40分程度の一次発酵を行う。

今は冬。室温に放置してもちょっと寒い温度なので、一部屋閉め切って暖房を27℃にセットし、そこを発酵部屋とした。

 

③本生地作り1:マジパン

室温に戻しておいたマジパン(①)

ラニュー糖・・・25g

室温に戻しておいた無塩バター(①)

塩・・・3g

卵黄・・・1個分

中種を発酵させている間に本生地を作る。

まずはマジパンラニュー糖の1/3くらい(8g程度)を馴染ませる。

ゴムベラを使ってボウルに押し付けるようにして混ぜ込んでいく。

 

馴染んだら、柔らかくしておいたバターを少しずつ加えていく。全部一気に混ぜようとすると上手く混ざらないので、少量ずつ。

ゴムべらで押し付けるようにして擦り混ぜていき、根気よく全部混ぜ終えたら残りのラニュー糖2/3を加え、3gも入れる。

これらも擦り混ぜていき、混ざりきったら卵黄を入れる。

このまま滑らかにになるまでよく混ぜる。

 

④本生地作り2:粉

強力粉・・・100g

薄力粉・・・100g

カルダモン・・・少々

ナツメグ・・・少々

シナモン・・・少々

マジパンベース(③)

続いて大きめのボウルを用意する。最終的に全部このボウルに合体することになるので、充分な大きさのものが望ましい。

 

まずは分量分の強力粉薄力粉を1:1で混ぜ、スパイスを入れる。

スパイスの分量は好みだが、隠し味よりももう少し表舞台に顔を出すくらいには香らせたい。

各メーカーのキャップの形状にもよるが、イメージはだいたいそれぞれ2振りくらい。

シナモンはもう少し入れてもおいしくなる。他のスパイスは過度に主張しないよう注意。不安だったらシュトーレン用のスパイスミックスを使うと良い。

確かにカレーハンバーグを自作しない限りカルダモンもナツメグもなかなか減らないので、こういった使い切りのスパイスミックスは勝手が良い。

 

こちらに先ほどのマジパンベースを分割しながら切り混ぜていく。

徐々にボソボソとしたそぼろ状になってくる。

粉っぽさが無くなり、色が均一になるまで切るように混ぜていく。

 

⑤中種と本生地を混ぜる

発酵させた中種(②)

マジパン入り本生地(④)

中種はそろそろ良い感じに発酵した頃だろうか。だいたい直径が1.5倍くらいになっていれば良い感じだ。

発酵の加減は時間を目安にするのも良いが、膨らみ加減で見るのも良い。

 

本生地のボウルに中種を千切りながら入れていき、しっかりと混ぜ込んでいく。

色ムラが無くなり均一になることを意識しながら捏ねていくと良い。

5分程度、よく捏ねる。

 

⑥フルーツとナッツを混ぜる

ラム酒漬けフルーツ(①)

ローストアーモンド(①)

ボウルのシュトーレン生地の上にフルーツとナッツを乗せ、混ぜたくなるのを堪えてこの状態で二次発酵へ入る。20分ほどこのまま置いておく。

 

発酵を終えたらフルーツとナッツを混ぜ込む。偏り等は意識しなくても結構勝手に良い感じに馴染んでくれる。

ただし、なるべく内部に入れていくようなイメージはすると良い。極端に外にナッツが飛び出ていたりしなければ問題無い。

混ぜ込んだら再び5分ほど休ませる。

 

時間になったら、打ち粉をしたこね台に2分割した生地を丸めて置き、その状態でさらに10分の休憩。

 

⑦成形

先ほどの生地を麺棒で伸ばしていく。縦長の楕円形を目指し、だいたい横12cm×縦18cmくらいにする。

生地の分厚さはそこまで神経質にならなくても良いが、ある程度均一の方がこの後の作業はしやすい。

 

伸ばし終えたら、手前3cm、奥4cmほどを谷折り。つまり中心部へ向かって内側へ折り込む。折った後、軽く麺棒で生地表面を馴染ませ、さらに奥から手前に向かって半分に織り込む。

また麺棒で軽く表面を馴染ませたら、完成形がイメージできるようなシュトーレンらしい形になったはず。

 

最初、手前と奥で折る長さがアシンメトリーだったのは、折り目が重ならないようにするため。折り目が重なると内部に空洞が出来やすくなってしまうため、折り目の位置はずらすように。

 

この状態でオーブンシートを敷いた天板の上で30分休ませる。

その間にオーブンを200℃に予熱しておく。

 

⑧焼く

無塩バター・・・100g

200℃で10分、そのまま温度を180℃に下げてさらに30分焼く。

 

焼いた後はすぐさま溶かしバターを塗りたいので、無塩バター100gを溶かしておく。

僕はズボラなので、オーブンの上にバットを置き、そこにバターを置いて溶かしておく。オーブンによってオーブンの上の環境は違うので参考までに。推奨はしない。

 

焼けたらすぐさまバターを満遍なく隙間なく塗りたくり、さらにグラニュー糖をまぶす。

バターはバットにプールを作成し、刷毛も用意。大きめのジップロックに充分な量のグラニュー糖を入れておき、バターを塗ったシュトーレンにグラニュー糖をまぶせるようにしておく。

どちらも焼成後すぐに出来るように用意しておきたい。

 

⑨仕上げ

溶かしバター(⑧)

ラニュー糖・・・50g

粉砂糖・・・100g

シュトーレンが出来たらすぐさま溶かしバターへインする。

バットにバターのプールを作っておくことで底面も満遍なく塗りたくることが出来る。

上や側面も刷毛を使って塗りたくる。バターを塗り忘れたところから傷んでいくと考えてほしい。重要な工程だ。

さながら耳なし芳一*5の体中にお経を書いた住職の気分である。

 

バターをふんだんに塗ったシュトーレンにグラニュー糖をまぶしていく。こちらも全体にくまなく。

大きめのジップロックに入れて振るだけで全体にびっしりとグラニュー糖が付く。ジップロック便利過ぎ。好き。



このまま粗熱を取る。もう一度天板に乗せ、ラップをして暖房の効いていない涼しめの部屋に置いておく。

早ければ1時間程度、長くても2時間くらい経てば十分に冷えていると思われる。

 

完全に冷めたら、再びジップロックを2枚用意。

中に粉糖を30g程度ずつ入れておき、中にシュトーレンを入れて満遍なくまぶしていく。

更に追加で粉糖を入れ、重ね付けしていくような感覚で分厚く真っ白になるまでまぶしていく。

最終的に100gの粉糖の袋は空になってしまった。シュトーレン1本につき50gもの粉糖を使った計算になる。

 

⑩寝かせる

完成したシュトーレンはラップでピッタリと密閉する。余った粉糖も一緒にラップの中へ。

このまま冷蔵庫で2~3日ほど寝かせるとフルーツも馴染んでおいしくなる。

見た目も真っ白で美しい。

 

本国ドイツでは室温で保管するシュトーレンだが、日本の気候と湿度では室温保管は向かない。

じっくりと1週間以上かけて食べるなら、ちゃんと冷蔵庫へ。

 

食べてみる

シュトーレンを切り分ける。

シュトーレンを切るときは端からではなく、中央を切る。中央を取ったら断面同士をぴったりくっつけて保管する。

 

 

外側は硬化しているが、内側は柔らかくしっとり。

洋酒とスパイスが香り、クリスマス気分が盛り上がる。

マジパンが良いアクセントになっている。フルーツもゴロゴロ、ナッツもカリッとしていて楽しい。

 

バターをあれだけ使っていた割にギトギトしていないのが恐ろしい所。

お菓子やパンを作るとバターと砂糖の量に毎回眩暈がするかのようだ。

 

完成したシュトーレンはちびちびと食べていこうと思う。

残りが少なくなるたびに、クリスマスが近づいてくる。クリスマスのあの独特のワクワク感、相変わらず好きなんだよなぁ。

 

*1:待降節降臨節、待誕節。クリスマスイブまでの約4週間の期間をこう呼ぶ。宗派などにより諸説あり。

*2:バターではなく、マーガリン等の代用品でも良い

*3:こちらはバターでなければならない。マーガリンなどは不可

*4:オレンジピール・レモンピールを含む

*5:怨霊に狙われた芳一に対して透明化するためのお経を住職が全身に書いたものの、耳だけ書き忘れて耳を取られてしまうという怪談