コトレッタという料理をご存知だろうか。
各国料理が好きな人ならば知っているだろうが、認知度はそこまで高くない料理だと思っている。
今回はそんなコトレッタを日本風にアレンジして作ってみる。
コトレッタについて
コトレッタとは
単にコトレッタと言ったときには「コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ(cotoletta alla milanese)」を指す事が多い。
コトレッタの元祖はフランス料理の「コートレット(côtelette)」であり、実はこれ、日本のカツレツの元祖でもある。コートレット、コトレト、カツレツ…ふむ、なるほど…?
つまるところ、豚カツはこのコートレットから独自に発展していった料理と言える。
つまり豚カツと同じルーツを持つコトレッタも同様に揚げ物である。
しかし、伝統的なコトレッタは豚肉ではなく仔牛の骨付きロース肉のスライスを用いる。
まぁ日本で再現するにあたって、なかなか仔牛の骨付きロース肉は手軽に手に入らないし、他の肉を使っていてもコトレッタと呼ばれることもある。
ただ、誤解を招かないように「豚肉のコトレッタ」といった具合に、何の肉かを表記していることもしばしば。
ミラノ風コートレット
コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ、つまりミラノ風コートレットはミラノを代表する料理だ。単にコトレッタと言ったときもこのコトレッタ・アッラ・ミラネーゼを指すくらい有名である。
ミラノ風とは
何がミラノ風(アッラ・ミラネーゼ)なのか。ミラノの特産品を使っているのか。
否、違う。
ミラノと言えば今でも人気の観光都市であるとともに、歴史のある街でもある。
昔から服飾や繊維業が盛んでファッションの都として知られるミラノ。富豪も多かったとされ、そのイメージからか皮肉からか、黄金色に仕上げた料理を「ミラノ風」と呼ぶようになった。
これはミラノの人が黄金色を好むからそうなったのか、それともミラノの人のイメージを揶揄した物なのか――。しかしミラノでの代表料理となっている点から、どちらかというと前者がリアリティがある。
見栄張りなシェフが「ほら、ごらん、この黄金色を。これが都会ミラノの料理さ」と出していたのかもしれない。
それを食べた旅行者が「はえー、ミラノってなんでも黄金なのねぇ、さすが都会」となったのかもしれない。知らんけど。
というわけで、コトレッタ・アッラ・ミラネーゼは仕上がりの色が見事な黄金色なのである。
黄金色でなければミラノ風では無い、とすら言えてしまうかもしれない。
同様にミラノ名物であるリゾット・アッラ・ミラネーゼ(=ミラノ風リゾット)はサフランを使い、一面黄金色の仕上がりだ。
どこかのチェーン店でミラノ風ドリアというものがあるが、ドリアはイタリア料理ではないため、こちらは日本発祥の洋食である。ただ、確かにドリアに使われているライスは黄色をしているのでミラノ風っぽさはある。
コトレッタの特徴
コトレッタはそれこそカツと同じように、小麦粉⇒卵液⇒パン粉の順で肉をくぐらせてから揚げる料理となる。
ただし、日本で親しまれるカツとはいくつか決定的な違いがある。
肉は薄め
日本の豚カツは2cmを超える厚さのものもあり、厚切りをアピールするお店もあるくらいだ。
対してコトレッタは肉を薄く伸ばし、だいたい5mm以下くらいにしてしまう。
パン粉は細かく
日本の豚カツはザクザクした衣が特徴だが、コトレッタはとても細かなパン粉を使う。文字通り、本当に粉みたいな細かさで用いる。
揚げ焼きで作る
肉が薄いため、たっぷりの油で揚げる必要は無い。
フライパンで少し多めの油で揚げ焼きにして作る。
バターを使う
伝統的なレシピでは使う油は全てバターだったと云う。
バターを始めとした乳製品が高額な現代に於いては、最後に香りや風味付けとして用いることが多い。
作ってみる
材料(4人分)
- 豚肉・・・カツ用4切れ
- 塩胡椒・・・適量
- 衣
- 小麦粉・・・適量
- 溶き玉子・・・2個分
- パン粉・・・60g
- 粉チーズ・・・30g
- オリーブオイル・・・大6
- バター・・・20g
※作りやすいのは4人前。2人前の場合はバターを10g、他は半量にして調整を。
揚げ物ではあるが、工程や作り方としては楽。フライパンで出来るし。
作り方
①パン粉を細かくする
パン粉60gをひたすらに細かくする。そのままの粗さでパン粉を使ったら、それは豚カツだ。
フードプロセッサーがあれば出番。その力をいかんなく発揮してもらえれば。
フードプロセッサーを持っていないそこのお前は、パン粉を適当な袋に入れて上から麺棒などでゴリゴリと擦り潰していくと良い。
こんな感じで袋に入れる。空気は抜く。
最初はこれくらいの粗さ。これはこれでサクサクしておいしいのだが、コトレッタに於いては粗すぎる。
目指すのはこれくらい。まさにパン「粉」である。
こちらをさらに篩にかける。まぁこの工程をご家庭でするかどうかはお任せするが、した方が歯ざわりが整うのでよりおいしい。
粉チーズ30gも加え、篩にかけていく。残った粉はさらに細かくし、再び篩へ。
これを3回くらい繰り返し、サラッサラのパン粉が完成する。
なお、パン粉と粉チーズの比率は2:1くらいがおいしい。チーズが好きならもっと増やしても良い。
②肉を叩いて伸ばす
今回は豚カツ用の豚ロースを用意した。
このまま豚カツにしても良さそうだが、これを肉叩きでぶん殴って伸ばしていく。
ラップで挟んでおくことで、飛び散りや汚れを抑える。
肉叩きが無い場合は、袋か何かに入れて麺棒でゴロゴロするなり、瓶の底でゴンゴン叩くなりしてほしい。
目指すのは厚さ5mm以下。
油は切り取ってしまっても良いが、今回は残す。
横から見るとこんな感じ。
もともと1cmくらいはあったので、半分以下になるくらいに叩いた。
この時、全体の厚さにムラがあると揚げ上がりに影響するので、特に中心部や奥側の厚さにも気を配る。
叩き終えた豚肉には塩胡椒を振っておく。
コトレッタはソースを使わないので、この塩胡椒と揚げる時のバターと衣のチーズの塩気で味が決まる。
普段こういったお肉に下味を付け馴れている人は、塩をいつもより1振り多めにするくらいの気持ちでやるとうまくいく。
③衣の準備をする
卵2個を割り、溶いておく。
箸はボウルから浮かさずに、切るように混ぜる。空気をあまり含ませないようなイメージで。
あとは小麦粉を準備したら、衣は準備完了。
揚げる前に、小麦粉⇒溶き玉子⇒パン粉の順に付ける。
小麦粉は両面に満遍なく薄く。ダマにならないようにし、付き過ぎた粉ははたいて落とす。
玉子を両面に絡ませたらパン粉を全体に細やかにまぶしつける。
④揚げ焼きにする
フライパンにオリーブオイルを熱する。
レシピ通りに4枚を揚げる時は、まずは油の量を大さじ3にし、揚げ終えたら大さじ1ずつ追加、最終的に大さじ6使用する。
2枚を揚げる時の油の量は最初大さじ2.5にし、一枚目を揚げたら大さじ0.5を追加する。
中火より少し強いくらいの火力で油を熱していき、温度が上がったところで揚げ焼きにしていく。
白煙が昇るくらいだと温度が上がり過ぎている。パン粉をちょっとフライパンに入れた時にただちに細かな泡が付いてくるくらいが良い。
焼き色が付いたら裏返して同様に焼く。
早ければ片面につき1分とかで十分かも。色を見ながら揚げ焼きにしていく。
この時、揚げすぎてブラウンカラーに焦げてしまうとミラノ感が薄れてしまうので、黄金のきつね色を目指す。
揚げ焼きに出来たら、一旦油を切っておく。
⑤仕上げにバターで揚げ焼きに
全てを揚げ終えたら、フライパンの油をキッチンペーパーに吸わせて減らす。ほぼ全て吸わせて良い。
フライパンにバター20gを熱して溶かす。
4枚あるときはバターは半量ずつ、2枚あるときはバター全量を一気に溶かしてしまって構わない。
そこに揚げ焼きにした肉たちを絡めていく。バターを吸ったらOK。ここであんまり揚げすぎると焦げちゃう。
バターをまとい、得も言われぬ良い香りが立ち込める。
なんとなく仕上げにローズマリーを散らした。ローズマリーを入れるだけで急にそれっぽくなるのでオススメだ。
バターと一緒に香草を入れる事で、その香りも移す事が出来る。香草の苦みが出ると良くないので、香草を加熱しすぎたり焦がしたりしないように。
あとは盛り付けたら完成だ。
食べてみる
これがミラノの民が愛してやまないコトレッタ・アッラ・ミラネーゼの豚肉アレンジだ。
味付けは非常にシンプルだが、これが旨い。
チーズ感もあり、バターも香ばしさもあり、絶妙な味付け。味付けがシンプルな分、豚肉感と衣も楽しめる。これ、いい豚肉で作ったら相当なご馳走になりそうだ。
ソースを掛けなくても充分な味がついており、塩気もばっちり。日本の豚カツはソースなり味噌なりカラシなり塩に付けるなりして味を後から付けるが、このコトレッタは調理工程で全部味が決まっている。
要はチーズとバターの香りのする薄い豚カツなので、もちろんご飯にも合う。
クドそうに見えてライト。ペロッと平らげてしまったが、あれだけのオリーブオイルとバターを吸っているので、なかなかのカロリーだと思う。
好みでレモンを絞っても良い。
とかいってレモンを買っても使いきれないので、代わりにレモン汁。これでも充分雰囲気が出ておいしい。
揚げ物と聞くとちょっと準備や片付けで身構えてしまうが、こちらのコトレッタは揚げ焼きなので幾分ハードルが低い。
そこまで気負うことなくチャレンジできると思う。余ったパン粉、粉チーズがあるときの消費メニューにも。