週末には、ちょっと凝ったお料理を

橋本ねこのお料理部屋( 'ω')

2種のソースで仕上げる「ローストビーフ丼」

 

 


ローストビーフ。豪快に塊の牛肉をローストした、ごちそうだ。

これを丼にしてしまうという日本人の食への飽くなき探求心は敬服に値する。シュクメルリも丼にしちゃうし、なんでもごはんに合わせようとするな。料理をごはんに合うかどうかで測るな

まぁしかしごはんに合うし、おいしい。丼は正義である。

 

ローストビーフ丼について

ローストビーフとは

ローストビーフそのものはスーパーやデパ地下の総菜コーナーでもお目にかかることがあり、料理としての認知度は比較的高い方だと思っている。

 

そんなローストビーフはイギリスの伝統的な料理。

イギリスでは日曜日に牛を焼いて盛大にご馳走を食べ、平日はその焼いた後の残り物や適当にフライドポテトやサラダなんかを食べ繋ぐという「サンデーロースト」という習慣がある。

当時は牛を丸々一頭焼いていたとかいう話もあるが、今ではまぁなかなかそんなこともない。ただ現代でも慣習として日曜日にローストビーフを作る事もあるらしい。日本で言う金曜日のカレーみたいなもんか。知らんけど。

 

一般的にローストビーフと言えば、塊肉を外側を焼いて、薄くスライスして、ソースをかけて供される。

塊のままだとステーキだし、中まで火が入り切ってしまうとそれはまたちょっと違う料理になる。

また、翌日以降は出来立てではないため冷えた状態で食べる事になるが、それを模してというか逆手に取ってというか、冷製で供する場合もある。それはそれでおいしい。作って冷やしておくことで素早く供すことが出来るため、コース料理の前菜・オードブルにも使いやすい。

 

日本とローストビーフ

そんなローストビーフは日本でもちょっとした贅沢品のような感じのポジションに就いた。まぁ牛肉ですし。

調理の豪快さやビジュアルの良さから、イベントごとやパーティー等で用いられる。

 

ただ、和牛みたいにサシを重視した肉質よりも赤身でグラスフェッド*1の方がローストビーフには向いている。

ローストビーフを作るならば、和牛よりもオージービーフ、サーロインよりもリブロース、といったところ。

そういった側面もあり、どちらかというと海外由来のイベントで食べられることが多い印象だ。例えばクリスマスとか。

ローストビーフを丼にする

そして近年、そんなローストビーフを丼にしようという危険な思想が生まれ、ローストビーフ丼が誕生した。

焼いた牛肉さえ安定して用意出来れば調理や盛り付けはそこまで手間じゃない点、お店としてもローストビーフがそこまで足の速い食材ではなく冷凍保存も出来る点などの食材としての取り回しの良さと、ローストビーフの贅沢感、盛り付けのビジュアル、とヒットする要素が重なった。

 

一時期は大ブームになるほどだった。

流行の最大点が2016年らしいのだが、2015年には生肉の規制があったためレア肉への注目度が高まったというバックグラウンドもある。

また、更に少し前は「熟成肉」という概念が浸透し始めた時期でもある。それらもあり、そもそも肉自体、特に赤身肉に注目が集まっていた時期であったとも考えられる。

それら追い風もあり、全国に専門店が誕生するほどの流行となった。

 

今は多少鎮静化したものの、未だにローストビーフ丼自体は存在し、専門店もある。一過性のブームとはならず、ある程度定着したと言える。

 

ローストビーフ丼「らしさ」

家系ラーメンに家系ラーメンたるトッピングがあるように、ローストビーフ丼にもローストビーフ丼らしさを感じられるような要素がいくつか存在する。

①ごはんの上に綺麗に盛る

ごはんの上にまるで花のように盛り付けられたローストビーフ。写真映えを意識したような盛り付けとなっている。

②謎の白いソース

なんか白いソースが掛かっているのがよく見られるローストビーフ丼となっている。

このソースはお店によって違いがあり、名前も無い。ヨーグルトベースだったり、チーズっぽさがあったり、様々だ。

個人的な推察では、これは本国のローストビーフに添えられていたホースラディッシュを模しているのではと思っている。実際にホースラディッシュを用いてソースにしている専門店もあるが、あまりホースラディッシュ感の感じられるソースが添えられていることは無いような気がするのが個人の体感である。

たいがいシーザードレッシングのような味のするやや酸味の効いたソースである。

こちらは雰囲気の出るソースのレシピを後ほど紹介しようと思う。

③上には卵

頂上に卵を乗せることが多い。

卵は卵黄のみか、温泉玉子、半熟卵が多い。

これが無い場合は、何かしら彩りの良いトッピングがされている。他にも彩りとして葉物が添えられていることもある。

 

作ってみる

材料(2人前)

  • ローストビーフ
    • 牛肉 300-500g
    • ローズマリー 適量
    • 塩 適量
    • 胡椒 適量
    • オリーブオイル 適量
  • ソース1:オニオンソース
    • たまねぎ 1/2個
    • にんにく 1片
    • 生姜 にんにくと同量くらい
    • 醤油 大2
    • みりん 大1
    • 砂糖 大1
    • 日本酒 大1
    • サラダ油 大1
  • ソース2:白い謎ソース
    • ヨーグルト 60g
    • マヨネーズ 30g
    • にんにく 1g
    • 塩 適量
    • 胡椒 適量
    • わさび 2g
    • レモン汁 小1
  • ごはん 好きなだけ
  • 卵黄 2個分

ローストビーフ用の牛肉として、塊の赤身肉を用意する。出来ればグラスフェッドで。

 

作り方

①肉を常温に戻す


まずは肉の塊を常温に戻す。冷蔵庫から出していきなり温めないこと。

これはステーキを始めとした大きな食材全般に言える。外側の温度と中心部の温度に差が出やすく、中心部が冷たかったり凍っていたりすると表面だけ先に火が通り過ぎたり調理ムラが出来たりする。

こうなるともう調理時間や火加減、出力なんかも全部アテにならない。ただでさえ塊肉は個体差があり調理には"感覚"が伴う。というわけで成功の第一歩は温度管理である。

 

レシピにあるような300g程度の肉でも1時間くらいは室温に馴染ませたい。夏場は室温に置いておくと不安なので、冷房を効かせたちょっと寒めの部屋が用意出来ると良い。

触ってみて「ヒンヤリしている」とならないくらいまで室温に戻す。もし表面がヒンヤリしていたら中心部はもっと冷たいと思われる。

 

②ソース1:オニオンソースを作る

今回は2種類のソースを作る。

上に掛かっている謎の白いソースばかりに目が行きがちだが、味の土台となるのはもう一つのオニオンソースである。

 

材料はシンプルで、玉ねぎ1/2個、にんにく1片、しょうがを用いる。しょうがはにんにくと同量程度とする。

醤油大さじ2、みりん大さじ1、砂糖大さじ1、日本酒大さじ1は事前に合わせておく。

玉ねぎ、にんにく、しょうがは細かく刻む。後からミキサーにかけるのでそこまで神経質に刻まなくても良い。

特に玉ねぎは繊維を断つように切ると硫化アリルが発生して涙腺が刺激されてしまう。縦に切るだけのくし切りに留めておくと良い。

ミキサーが無い人は、泣きながらおろし金みたいなのでゴリゴリと削るも良し。

材料はこのくらいの粗さで大丈夫。全部細かくなるし。

ここに先ほど合わせた調味料を投入し、スイッチオン。

この玉ねぎの絶妙に残った繊維感が良いのだ。

これらを加熱してアルコール分を飛ばすため、手鍋へ移す。

このタイミングでサラダ油大さじ1も入れておく。

あとは弱火~中火でじっくり火を入れる。焦げないように適宜掻き混ぜておく。今回は何だかんだ10分くらい火入れした。

 

③ソース2:白い謎ソースを作る

白い謎ソースを作る。こちらに使うにんにくとわさびはチューブで良い。むしろチューブの方が扱いやすい。

 

チューブのわさびの大半には西洋わさびが使われている。この西洋わさびというのが実はホースラディッシュのことで、つまりローストビーフに使うあの白いわさびなのである。

西洋わさびの方が入手しやすくコスト面でも優れているのだろうか。最近は見かけないが廉価品だと西洋わさびに着色料を用い、まったく本わさびを使っていないものすら見かけたことがある。「本わさび入り」「本わさび使用」と書いてある物も原材料を見るとだいたい「西洋わさび」の文字がある。

とはいえ、別に西洋わさびは本わさびのジェネリックではないし、粗悪品でも無い。むしろ今回はこの「西洋わさび(=ホースラディッシュ)」の風味を求めているのだ。

まぁご家庭でホースラディッシュをわざわざ買っても使いきれないだろうし、わさびはチューブで充分。なおかつヘタに本わさび比率が高めじゃない方が良い。

 

さて、こちらの謎ソースの作り方に戻る。

作り方は簡単、すべて混ぜるだけだ。

ヨーグルトとマヨネーズは2:1。

今回はヨーグルト60g、マヨネーズ30gとした。

にんにくを1g、わさびは2g、レモン汁を小さじ1、塩胡椒をちょっとだけ。

 

これらを掻き混ぜ、充分に馴染んだら完成だ。

 

④肉を焼く前の準備

牛肉が常温に戻ったら、焼く前の準備を行う。

 

まずはオーブンを予熱。200℃にしておく。

 

オーブンを予熱している間に肉に下味を付ける。

まずは外側にオリーブオイルを塗りたくる。上も下も横も全部。

オリーブオイルを敷いたバットの中で塗りたくると楽だ。

 

その後、塩胡椒を全体に擦り込む。

今回はソースの味がしっかりしているので、そこまで強く下味を付けなくても大丈夫。ただしこちらもオリーブオイルと同様各面に擦り込んでおく。

オーブン用の天板にシートを敷き、上に肉を乗せる。

適当にローズマリーを散らしておき、予熱したオーブンへと入れる。

⑤焼く

4cm厚程度、300g程度の牛赤身肉ならばオーブンで8分程度。

焼き上げた後、特に側面を外から見て明らかに赤い部分がある場合は追加加熱を行う。

 

中心部の温度計測が出来るならば、理想は50℃。

+2分くらいずつ追加加熱をしながら様子を見る。

 

中心部の温度が50℃まで上がっていればOK。

その後、オーブンの中を保温庫がわりにし、10分程度放置。

その間に中心部の温度はもう少し上がり、良い感じの色になる。

⑥盛り付ける

ご飯を丼に用意し、薄く切った肉を外周下部からぐるりと乗せていく。

外周が埋まったら今度は内側にぐるりと。中央は卵黄を乗せるため、場所を残しておくと良い。

 

盛り付け終わったら丼の中央を少し外したあたりからオニオンソースをかけていく。全体にかけないのがポイント。まぁ全体にかけても良いんだけど。

その後、今度は逆サイドに白い謎ソースをかける。

最後に中央に卵黄を乗せて、完成だ。

 

食べてみる

まぁおいしいに決まってるよね。約束された勝利八百長だよ、こんなの。当たり前においしい。

ビジュアルも良い。しっかりと焼けた外側、ロゼピンクの内側。白いソースにプルンとした卵黄。卵黄いつ割る?と盛り上がるのも一興だ。

白いソースはシーザードレッシングのような味わい。チーズは入れていないが、ヨーグルトの酸味、レモンの酸味、マヨネーズの酸味が合わさっている。これが本当の酸味一体(三位一体)ってか。やかましいわ。

 

オニオンソースは意外と手軽に作れて、そしておいしい。

市販のすりおろしたまねぎのタレのような味。ああいうのって中々使いきれないから、こうしてその都度手作りをするのも良いかもしれない。欲しい時に、欲しい分だけ。

醤油ベースなので、もちろんご飯によく合う。

 

白いソースの方で食べると洋、オニオンソースで食べると和、と変化するのも面白い。

ワインも日本酒も合う。異文化との出会い、そしてある意味日本は既に食文化の面でダイバーシティが進んでいるのかもしれない。

 

*1:牧草を餌とした肉牛。グレインフェッド(=穀物を餌とした肉牛)と区別するために用いる。グラスフェッドは広大な土地が必要で、やや臭みが出る傾向にあるがナチュラル。グレインフェッドは餌で肉質のコントロールがしやすいが、ストレスがかかる等と言われたりもする。まぁどっちも良い点・悪い点はあり、どちらが優れているかを論じるのは詮が無い。