週末には、ちょっと凝ったお料理を

橋本ねこのお料理部屋( 'ω')

じっくりコトコト、どて煮を作る

 

 


めっきり寒くなってきた。

寒い冬には煮込み料理。じっくりと煮込みながら作る料理は寒い地方に多く見られるような気がする。

欧州、北米ではシチューやポトフ、その他煮込み料理が多く存在する。そういった料理も良いが、今回は和食を作っていく。

 

今回作るのは、名古屋名物B級グルメどて煮」だ。

関西にも「どて焼き」があるが、今回は名古屋流のゴテゴテに色の染み込んだ濃い味付けのどて煮を作っていく。これぞローカルフード。

 

どて煮について

どて煮とは

ルーツの「どて」

そもそも、「土手(どて)」という調理法がある。

今でも「牡蠣の土手鍋」などで食されるが、鍋の内側にぐるりと味噌を厚めに塗り、中央で具材に火を通していくという鍋料理を「土手」と呼んでいる。

徐々に味噌は溶け出して、中央は味噌で煮込まれていく。このとき、この周囲の味噌がまるで土手みたいだったのでこう名付けられたとされる。

 

ここから「どて焼き」「どて煮」と派生していく。

大阪では安価な下町グルメとして広まり、今でも名物料理として伝承されている。

 

愛知県での「どて」

愛知県で「ドテヤキ」に関して言及がある文献としては1923年の名古屋新聞がある。

八丁味噌を用いたドテヤキについての記述があり、この時点で既に食べられていたものと見ている。

現在では「どて"焼き"」ではなく「どて"煮"」の呼称が一般的であり、大阪の「どて焼き」と区別するためじゃないかと思っている。どうなんでしょう。

 

愛知県でのどて煮は豆味噌(八丁味噌)をふんだんに使うところが特徴である。

こってりとした味わい、色、香り。「名古屋(愛知)名物ってとにかく茶色だし味が濃い」と言われてしまう由縁の一角を担う料理でもある。

 

「どて」という調理法

さて、なぜわざわざ味噌を「どて」にするのか。

だって別に「いきなり溶かしちゃえば良いのでは?」という疑問も生まれてきても不思議ではない。全部予め混ぜておけばいいのに、と。

しかし、この調理法にはいくつかの理に適ったメリットが存在する。

味噌の香りが飛びづらい

味噌は加熱すればするほど風味が飛んでしまうため、基本的には仕上げの工程で加える調味料である。

例えば味噌汁も「具材に火を通した後に味噌を加える」という工程が基本であり、かつ味噌を加えた後は沸騰させない方が良いとされる。

他の調味料の味を先に染み込ませられる

調味料の入れる順番「さしすせそ」は聞いたことがあると思うが、味噌は「そ」=最後に位置する調味料である。

味噌よりも前に分子の大きい砂糖や味の染み込みやすい塩を入れる事で効率よく味を入れていくことが出来る。

例えばどて煮では、先に砂糖や酒・みりんなどを入れて煮立たせて調理を行う。これらの調味料が染み込んでいく頃にはちょうど周囲に塗っていた味噌が緩やかに溶けてくる、という塩梅になる。

調味料の入れる順番からしても理に適っていると言えるのだ。

何を入れるか

どて煮に使うメインの畜肉食材として、「牛すじ」か「豚モツ」が挙げられる。どちらが入ってもどて煮ではあるが、両方が入っているパターンはあまり無いように思える。

他にはこんにゃくや大根を入れたり。にんじんを入れたりごぼうを入れたりする場合もある。主に根菜を煮込むようなイメージ。

茹で玉子が入ったりする場合もあるが、そうなると徐々にどて煮というよりも味噌おでんに近づいていくような気がする。

 

 

作ってみる

材料(x4)

  • 豚モツ(ボイル済み)・・・370g
  • 塩・・・小さじ1
  • こんにゃく・・・250g
  • にんじん・・・1本
  • 大根・・・1/2本
  • 生姜・・・10g(4スライスくらい)
  • 葱の青い部分・・・2~3本分くらい
  • 水・・・700ml
  • 砂糖・・・大さじ6.5
  • 酒・・・大さじ6.5
  • みりん・・・大さじ5
  • 豆味噌・・・150g
  • 生姜(すりおろし)・・・5g
  • 仕上げにお好みで葱、七味唐辛子

 

作り方

①豚モツを仕込む:その1

豚モツ(ボイル済み)・・・370g

塩・・・小さじ1

今回はボイル済みの豚モツを用意したが、まだまだ臭みや汚れが残っている場合もあるため、下処理を行う。

 

工程としては「塩もみ⇒ボイルを2回」となる。

先にボイルのための湯を鍋に沸かしておくと良い。

 

ボウルの中に豚モツを入れ、を全体に揉み込む。ヌメりが出てくるまで揉み込んでいく。

こうすることで、徐々に汚れが塩に溶け出してくる。

ヌメりのある塩水がある程度ボウルに溜まってきたら完了。流水で洗う。

 

沸いた湯に豚モツを入れ、5分程度茹でる。もしも豚モツがボイル済みじゃない場合は更に工程が増えてしまうため、やや面倒になる。

アクは取らなくて良い。

 

②食材を仕込む

こんにゃく・・・250g

にんじん・・・1本

大根・・・1/2本

生姜・・・10g

葱の青い部分・・・2~3本分くらい

豚モツを煮込んでいる間に他の食材をカットしておく。

また、豚モツはこの後もう一度煮込むため、やかん等で湯をスタンバイしておくとスムーズだ。

 

こんにゃくは良い感じのサイズにカット。カット済みのものや煮込み用のものを使うのも便利だ。

 

にんじんは1cmくらいの幅で輪切りにし、1/4にカット。いわゆるいちょう切りだ。

大根は皮を剥きやすいサイズに輪切りにする。その後皮を厚めに剥き、1cmくらいの幅で輪切りに。こちらもいちょう切りにしておく。

大根はあまり分厚過ぎると味噌おでんのようになってしまうので、個人的には薄めが好みだ。

そういえばどて煮の時は面取りを意識しないかもしれない。

面取りをしても良いけど、しなくても煮崩れしない。

長時間煮込むけど、ずっと弱火だからかも。あまり掻き混ぜもしないし、鍋の中はずっと穏やかだ。だから煮崩れしないのかも。

 

生姜は皮を除き、薄くスライス。ついでにすりおろし生姜も作っておく。

スライスは臭み消しとして豚モツと一緒に煮込む。

すりおろし分は後から味付けに使う。もちろんこちらはチューブでも良いが、臭み消しでどうせ生姜を使うので、せっかくなら風味の良いおろしたてを用意したい。

 

の青い部分も臭み消しで用いる。ついでに最後の盛り付け用の葱を用意するのも良い。

 

③豚モツを仕込む:その2

下茹でした豚モツ(①)

スライスした生姜(②)

葱の青い部分(②)

カットしたこんにゃく(②)

煮込み終えた豚モツは一度ザルにあげ、流水で洗う。

その後、鍋の湯は捨ててもう一度湯を沸かし、今度は豚モツとともに生姜のスライスと葱の青い部分こんにゃくを加えて5分間茹でる。

一回目はアクをすくわなかったが、二回目はアクが出たらすくっておく。

④大根を下茹でする

カットした大根(②)

先ほど切った大根を別鍋で下茹でする。

沸騰した湯に入れてだいたい10分ほど煮込んでいき、完成。

 

⑤煮込む:その1

下茹でした豚モツとこんにゃく(③)

下茹でした大根(④)

カットしたにんじん(②)

水・・・700ml

砂糖・・・大さじ6.5

酒・・・大さじ6.5

みりん・・・大さじ5

煮込み終えた豚モツとこんにゃくは鍋へと移す。一緒に煮込んでいたスライスの生姜と青葱はここでお別れ。

 

にんじんと下茹でを終えた大根も鍋に入れ、砂糖みりんを入れる。

これらを中火にかけ、沸いてきたらアクをすくう。鍋が湧いてくると結構アクが出るので、取り除いておく。

充分な水の量があり、長時間煮込んでいくため、落とし蓋はしなくて大丈夫。

 

⑥煮込む:その2

豆味噌・・・150g

すりおろし生姜・・・5g

煮込んでいる間に味噌を用意しておく。

特に八丁味噌が最高だが、いわゆる豆味噌・赤味噌と呼ばれる物ならばOK。

ちょっと拘るなら、麦麹や米麹などの他の材料由来の麹を使っていない大豆麹で大豆を発酵させた大豆100%の豆味噌が望ましい。パッケージの表記を確認すると良い。


ある程度アクを取り、鍋の中身も馴染んできたように思えたら、いったん火を止めて味噌を溶いていく。

沸騰してからここまで10分くらいだろうか。みりんや酒が馴染んだ香りがふんわりと漂っていれば大丈夫。

味噌150gの破壊力に気圧されそうになるが、全て根気よく溶かす。そのまま入れても溶けづらいので、味噌漉しを使うと良い。

なんとか溶かしきったら、おろししょうがも入れて、着火。

コンロで出来る限り一番弱い火力にし、ここからとりあえず1時間かけて煮込む。

蓋はせずに水分を飛ばしていく。完成はだいたい最初の汁量の半分程度になる。

あとはもうアクを取らなくて良いし、焦げる心配もほぼ無いため、たまに中身を掻き混ぜる程度で大丈夫。気長に煮込んでいく。

 

⑦一度冷ます

1時間程度経ったら、一度火から下ろして冷ます。

火加減によっても時間のブレはあるため、鍋の様子は50分が経過したくらいから気にしておくと良い。

最初の味噌汁みたいな見た目から、煮込み料理っぽくなってきている。

 

ただし、大根の白さは無くなったが、食べてみるとまだまだ味が染み込みきったとは言えない。豚モツにも味が入っていない。

一緒の鍋で煮込まれてはいるものの、全部の具材がちょっと人見知りを発動しているような、なんか一歩引いているようなそんな印象。「あ、どうも、、にんじんです、、」「ぶ…豚モツです…」みたいな。

 

この馴染みの悪さを解消するには、煮込み続けるのではなく一度冷ますのが大事。

具材は冷える時に味が染み込むので、この一度冷ます工程は重要だ。

一晩かけて冷ましても良い。

 

⑧煮込む:その3

再びとろ火で加熱開始。更に30分煮込んで水分量を調節していく。

豆味噌は加熱に強く、他の味噌のように香りが簡単には飛んでしまわない。味噌煮込みうどんもそう。味噌を入れてガンガンに煮込んでいく料理は豆味噌独自と言える。

 

このレシピで作ればどて煮・どて飯の両方が楽しめるような良い水分量になるが、あまりに煮詰まりそうだったら水を足す。水面から顔を出す具材が渇いてしまわないよう、定期的に中身を混ぜてやると良い。

 

⑨完成

2回に分けて煮込んだ後、大根はすっかり味噌の色になってしまった。

水分量もグッと減り、最初の量の半分くらいの水嵩になった。

 

この濃い色が良いのだ。これぞどて煮。

あとは盛り付けて、葱や唐辛子をお好みで。

 

食べてみる

ただいま、名古屋。

一瞬何の具材なのか分からなくなるほどの濃い色。これがどて煮だ。

 

味はしっかりと染み込み、噛むたびに味噌の濃い味がする。

味噌の香ばしさ、甘みと辛さ、そして独特のほろ苦さ。

 

ごはんの上に汁と一緒にかけて、どて飯にするのも良い。

温泉玉子を乗せて、葱と七味唐辛子もかけて。

 

パパっと作ってすぐに食べられるような料理ではないが、自分で作ると思い通りの味に出来るのが良い。

一度作ってみる。じゃあみりんが多かったらどんな味になるのか作ってみる。ああ、じゃあ自分はこっちの方が好みだな、と「自分好み」を見つけていく。

それが家庭の味になるんだよ、きっと。

 

味はどて煮を食べ馴れている名古屋・愛知の民からすれば本当に丁度良い塩梅。

しかし他の地域の人からすれば濃すぎるかもしれない。まぁこれがこの地域の味だと思って受け入れてほしい。薄味のどて煮のレシピなど存在しない。この味が気に入るか、気に入らないか、だ。

 

一度ハマれば病み付き、と言われるのが名古屋めしというもの。

必ずしも好きになるかは分からないけども、ぜひ試してみてほしい。